大腸カメラの実際
診断について2016.10.07
今回は大腸カメラについての話です。
昨今、大腸癌や潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患の増加に伴い、大腸の検査が必要とされる場面は増えてきています。大腸疾患の確実な診断には、やはり内視鏡検査に勝るものはなく、腹痛や下痢、便秘、便潜血反応陽性など、大腸カメラを勧められるケースも多いと思います。
ご存知の通り消化管は食べ物や水分の消化吸収を行う器官ですが、大腸はその最終段階で流れてきた内容物から水分を吸収し、便を形作る部位です。
大腸には部位別に名前がついており、上流から順に盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸です。肛門から入れる大腸カメラはこれを逆に進んでいくことになります。通常はスコープが盲腸に到達したら、小腸と大腸の繋ぎ目であるバウヒン弁を越え、小腸の末端部分まで確認します。
ちなみに世に言う盲腸という病気は、実際は盲腸の先にちょこんとついている虫垂という部分の炎症なので、正式には虫垂炎と呼びます。
胃カメラは事前に食事を摂らずに胃の中が空っぽであればそれだけで検査可能ですが、大腸カメラは事前の準備が必要です。大量の水分を含む下剤を飲むことで大腸の中を洗い流します。
この準備がうまくいかず、便が大腸内に残っていると良い検査になりません。観察が不十分になるだけでなく、視野が悪いためスコープの挿入も難しく、時間がかかったり苦痛が生じたりする可能性が高くなります。
下剤にはいくつか種類がありますが、通常は水に溶かした下剤を、当日の朝から2時間ほどかけて1〜2リットル飲みます。飲んでいる途中からトイレに通い始め、10回目前後で透明な液体のみが出てくるようになったら準備完了です。
便秘傾向の方はこの準備が進みにくいため、数日前から軽い下剤を服用したり、食事を制限しなくてはならなことがあります。
下剤の種類によって味や摂取量は違いがありますが、人によっては全く受け付けず嘔吐してしまうケースもあるため、錠剤を多量の水で服用する方法(この錠剤も50錠!)などもあります。しかし下剤としての有効性にやや難ありのためあまり普及していません。
つい最近150mlの下剤を2回服用し、間に自分の好きな透明の飲料を飲むという下剤も発売されましたが、いずれにしろ全体量としての水分量は多いことに変わりはありません。
(高齢の方などでどうしても服用が難しい場合は、1泊入院で分割服用法を行ってくれる施設もあります。)
なぜこれほどの水分を必要とするかというと、スコープのレンズはとても小さく、小さな残渣であっても視野を遮り挿入の邪魔になるため、きちんと洗い流す必要があるからです。
検査者の立場からすると、腸の内容液が透明であればあるほどスコープが挿入しやすくなります。また水分で腸の内腔が潤っているとスコープがよく滑ってくれるため、これも入れやすさの一つの要因となります。
さて、なんとか下剤を服用してトイレに何度も通い、出てくるものが透明な水状になったら準備完了。いよいよ検査です。
人の大腸は曲がりくねっているため、肛門からスコープを挿入し、ただ押し入れても奥に進んではくれません。スコープを操ってカーブを曲がったり、腸を縮めたり、押したり引いたりしながら❓マークのような形の大腸の終点(盲腸)を目指します。
特に前半のS状結腸は字の如く複雑に曲がっているため、ここが挿入のキーポイントです。ここを伸ばさずにうまく通り抜けると検査全体が楽に進みます。
通常はほぼ問題なく通り抜けられますが、腹部手術後で腸の癒着があったり、大腸がとても長い方、女性で細身の方などはS状結腸が過伸展してしまうケースが多く、苦痛を伴う場合があります。鎮痛剤や鎮静剤の使用とともに、スコープの慎重な操作や腹部圧迫法によって出来るだけ腸の伸展を予防しながら進めていきます。人によってはその後の大腸のカーブを乗り越えることが難しいこともあります。
無事盲腸まで到達したら、空気を送って大腸の中を膨らませ、少しずつ引き抜きながら大腸全体を観察します。観察とともに病理検査を行うための粘膜の採取(生検)やポリープ切除を行うこともあります。
長々と書かせていただきましたが、大腸内視鏡検査の概要はざっとこんな感じです。
私は出来るだけ腸を伸ばさないために、基本的に無送気軸保持挿入法という方法で挿入しています。これまで多くの検査を経験し多くの方に苦痛を感じさせずに検査ができるようになりましたが、それでも日々挿入の難しい症例に出会うたびに慎重に方法を考えながら検査を行っています。
なかなかこれでいいと思えるまでには至りません。
大腸内視鏡検査はとても(文字通り)奥が深く、職人的な技術の世界だと感じています。
すべての人が無痛で検査を受けられるとは言えませんが、想像しているよりも意外と楽に検査が受けられたという感想を多く聞きます。
検査には準備も含めると時間も取られますし、下剤を飲むのもたしかに大変ですが、もし必要な状況であればぜひ一度検査を受けてみてください。何もなければそれも安心につながると思います。
ご不安な方は、お気軽に外来で相談をどうぞ。